特定外来生物の選定についての日本緑化工学会外来種問題検討委員会の見解

日本緑化工学会外来種問題検討委員会

 日本緑化工学会では、生物多様性保全における、緑化の役割について、深い関心をもって研究を進めてまいりました。その成果については、日本緑化工学会誌27巻3号(2002年)に「生物多様性保全のための緑化植物の取り扱い方に関する提言」(以後、「提言」と略称)として取りまとめました。また法面緑化におけるより具体的な考え方を「のり面における自然回復緑化の基本的な考え方のとりまとめ」(日本緑化工学会誌29巻4号,2004年)に整理しました。
 その後、「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」(以後、「外来生物法」と略称)が成立し、平成17年6月、施行されました。同時に特定外来生物として、植物からは水草3種が選定され、現在は第二次選定の作業中であります。
 その第二次選定の候補種の中に、オオキンケイギクという緑化にも用いられる園芸植物がリストアップされました。また要注意外来生物として、シナダレスズメガヤ(ウィーピングラブグラス)、オニウシノケグサ(トールフェスキュー)、カモガヤ(オーチャードグラス)、ネズミムギ(イタリアンライグラス)、ホソムギ(ペレニアルライグラス)、キシュウスズメノヒエなどの芝草類が掲載されております。このことにつき、関連学会である芝草学会より、リストからの掲載削除を求めた、環境大臣宛の嘆願書が提出されました。また全国紙にも、同学会長より、関連した意見が掲載されております。
 こうした情勢から、緑化植物の利用について、不安をお持ちの方もいらっしゃるのではないかと思われます。つきましては、緑化工学会の本件に関する見解について、外来種問題検討委員会よりご説明申し上げ、問題についての正しいご理解をいただきたいと考えました。

 緑化は、災害復旧、防災、温暖化対策、景観改善、癒し効果など、生物多様性保全の他にもさまざまな社会的効用を有しております。外来種が持つ、生物多様性に対する脅威について配慮することは必要ですが、災害に伴う土砂流出の抑制など、緑化に用いられた外来種が果たしてきた特別な役割についても評価することが必要です。私どもが「提言」以来、訴えている事柄の第一は、このような緑化の公益性についてであります。
 私どもは、従来、緑化に用いられてきた外来種の有用性を認めながらも、在来種の利用についても努力してきました。しかしながら、コスト縮減という経済的背景から、在来種利用は海外からの「在来種」植物種子の輸入増加という事態も招きました。輸入種子には、悪質な外来種が混入する危険性があるばかりでなく、「在来種」とは言いながら、遺伝的に大きく異なる侵略的な性質を持つ海外の系統が導入されていることがわかってきました。こうした危険性があることから、緑化植物の取り扱いには、生態系に対する侵略性、在来種との雑種形成、在来の遺伝子系統攪乱の3つの問題があり、これらの解決のためには、総合的な対処が必要であることを主張して参りました。
 こうした主張は、政府においても理解されております。緑化植物については特定外来生物二次選定の対象から除外し、環境省、農林水産省、国土交通省の関係三省が連携して、生態系等に係る被害の防止の観点から、緑化における外来植物の取扱いに関する総合的な検討を進める、ということになっております。いわゆる三省合同研究会の設置です。ここで検討される植物には、要注意外来生物にリストアップされたものをはじめ、公益性の高い緑化植物はすべて含まれます。よって、これらが本年すぐに特定外来生物に指定されて、法の規制対象になることはありません。
 三省合同研究会では、緑化植物の利用実態の把握、緑化植物による生態系等への被害の発生構造の把握、代替的手法や代替的緑化植物の適用可能性の検討などについて検討することになっております。それに加えて、私どもが主張したいことは、植物取扱いのゾーニングの重要性についてです。法は国境における水際規制を想定しているために、特定外来生物は全国一律の利用規制を受けることになります。しかしながら、生物学的な代替性のほか、経済的代替性が保証できない場合は、特定外来生物に指定するのが難しいため、一定の決まりを設けて、有用な外来種を適正に利用していくことも必要になるでしょう。そのためには、そうした植物を利用可能な場、利用してはいけない場の整理が必要です。さらには、地域の遺伝的系統の保全についての配慮が必要な場、そのような必要のない場についての仕分けも必要でしょう。
 私どもは、三省合同研究会に対しましても、様々な機会を利用して、以上のような見解を主張していきたいと考えております。また、科学的知見に基づいた合理的な対処について、積極的な協力を惜しまない所存です。技術的改良についても、積極的に提案していきたいと考えております。

 私どもは特定外来植物の選定にあたっても、科学的根拠に基づいた判定であるべきことを主張してきました。選定作業が進められている政府の専門家会合でも、そのような基本方針は守られていると考えますが、今後はよりわかりやすい選定方法の整備が望まれます。すでに国内へ導入済みの植物については、分布状況・生育状況の全国的監視網を整備し、侵略性の判定基準を明確化することによって、適切な特定外来生物候補を選ぶべきです。未導入の植物については、実証的データによる判定は困難ですが、現在、研究が進行中の雑草リスクアセスメントシステム(WRA)などを用いて客観的判定が行われることが必要です。それらによって候補が選定されるべきですが、特定外来生物の指定にあたっては、さらに、社会的・経済的影響も考慮した上で、指定が真に効果的方法かどうか検討し、最終的な決定を行うべきです。こうした原則は、緑化植物に限るわけではなく、すべての有用生物に対して適用されるべき事柄と考えます。
 以上のように、外来生物対策には様々な難しい問題がありますが、前向きに対処する必要があるのも確かなことです。私どもの原則的立場は、「提言」で表明したものと変わっておりません。日本緑化工学会は衆知を集めてこの問題に対処していきたいと考えております。会員各位、そして国民各位の積極的ご協力をお願い申し上げます。

※ 「生物多様性保全のための緑化植物の取り扱い方に関する提言」は こちら をご覧下さい。

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